信号データの入出力

音声信号のディジタルデータの記録方法として代表的な WAV 形式について，データファイルの構成方法および入出力処理の実装方法を理解しよう．

実習を始める前に，持参したヘッドホンを PC に接続し， PC 側で音声出力先のデバイスや音量などを設定しておこう．耳に付ける前に音量を小さくしておくんですよ．

WAV ファイルの調査・入手

既存の WAV ファイル（ファイル.wav）を探索せよ．例：
```
$ ls -R /usr/share/sounds/ | less
# とか
$ find /usr/share/sounds/ -name *.wav
```
アプリの効果音等が他のディレクトリにもあるかも．

ネット上のフリー素材をダウンロードしてもよし．
音声を再生しつつ，PCM 形式の種類も確認して，実験対象とする WAV ファイルを選択せよ．
```
$ paplay -v ディレクトリ/ファイル.wav
```
サウンドサーバ PulseAudio 用の音声再生コマンドです．とりあえず「サンプル仕様 's16le ...」（整数16bitリトルエンディアン）なもの限定で選んでおこう．

再生したいだけ（形式確認が不要）なら，引数の「-v」は省略OK．
音声の波形を観察せよ．
```
$ audacity ディレクトリ/ファイル.wav &
```
音声エディタ Audacity です．とりあえず，波形表示機能だけを利用させていただきましょう．操作方法については，各自で調査しよう．

WAV 形式の構成

WAV 形式の仕様について，教科書を参照せよ．
WAV ファイル内のバイナリデータを観察せよ．
```
$ hexdump -C ディレクトリ/ファイル.wav | less
```
教科書の説明どおりの内容になっとるかね？

この hexdump は，人間には読みづらいバイナリデータを可読な形式（16進数字列や英字）に変換するコマンドです． WAV は，テキストファイルではないので，less 単独では読めませんよ．

サンプルプログラム

作業用ディレクトリの準備：

$ mkdir sp	# ディレクトリ名は任意でOK
$ cd !$

ソースディレクトリ： pcm/（個別ダウンロード）
圧縮ソースファイル： pcm.tgz（一括ダウンロード）
展開：
```
$ tar zxvf pcm.tgz
pcm/
...
```
コンパイル：
```
$ cd pcm/
$ make
...
$ ls
...	libpcm.so	rate	sin	thru	...
```
WAVファイル入出力ライブラリとサンプルアプリ３個です．
動作テスト：
```
$ ./sin | paplay	# 鳴りますか？
```
アプリの実行に失敗した場合，まずは環境設定を見直そう．
```
$ vim ~/.bashrc
...
export LD_LIBRARY_PATH=.

$ source ~/.bashrc
```
（「図形処理」で設定したハズ．）
ドキュメントとコードを確認し，さらにテストしよう．
```
$ less 00ReadMe.txt
...
$ view sin.c
...
$ view pcm.h
...
$ view pcm.c
...
```
この view は（多分）Vim エディタの表示専用モードです．つまり，vim とか他のエディタで開いてもOKですが，不用意に内容を書き換えないように注意．
Ｃ言語によってバイナリデータを効率的に処理するには，標準ライブラリ関数 fread()，fwrite() と memcpy() の利用が鍵となります．
- fread()：ファイルからメモリ領域へバイナリデータを入力
- fwrite()：メモリ領域からファイルへバイナリデータを出力
- memcpy()：メモリ領域から別のメモリ領域へバイナリデータをコピーする．
今後の課題に備え，マニュアル等を調べておこう．ライブラリのソース pcm.c 内でも使用しています．

WAV ファイルの入出力処理

サンプルプログラムを利用・改造し， WAV ファイル入出力処理の実装方法を理解せよ．
- アプリのソース sin.c を改造し， PCM データ属性（量子化深度，チャネル数，標本化周波数）の異なる複数の WAV ファイルを作成せよ．そして，それらのファイルのヘッダ部（"RIFF"〜"data"の間の部分，fmtチャンク）にあるバイナリデータの差異を hexdump によって分析せよ．例：
```
$ ./sin A 8 > a-8-1-48.wav		# 8bit，1ch，48kHz，無改造でOK
$ ./sin A 16 > a-16-1-48.wav		# 16it, ...
...
$ vim sin.c	# fs = 0xFF12;	とか分かりやすい数字に改造
	# とりあえず，標本化定理なんて無視して，テキトーでOK
$ make
$ ./sin A 8 > a-8-1-FF12.wav
$ ...
$ hexdump -C a-◯-◯-◯.wav | less
...
```
  各バイナリデータは WAV 形式の仕様の通りでしょうか？
  
  チャネル数と標本化周波数の変更には，ソースコードの書き換えが必要
- アプリのソース sin.c および thru.c を手がかりとして，ライブラリのソース pcm.c 内の関数 pcmInit()， pcmRead(), pcmWrite()，等の処理内容を解剖せよ
サンプルプログラムを利用し，再生速度の変更について理解せよ．
- アプリ rate を利用し，標本化周波数を変更して音声を再生し，効果を聴覚および audacity によって観察せよ
ディジタルらしく，速度だけ変わって欲しいところですが，ピッチ（音程）も変わってしまい，アナログ感... 速度だけ変更には，それなりの処理が必要ということね．

次回予告

複数の音の WAV ファイルを連結し，メロディを奏でよう．
周波数の異なる正弦波を重ね合わせたり，振幅を変調して，現実の楽器のような音色を生成しよう．